映画『裏切りのサーカス』(英語名:TINKER TAILOR SOLDIER SPY、ティンカー テイラー ソルジャー スパイ)を観ました。
ジョン・ル・カレが書いた小説が映画化されたものですが、これは映画慣れしていても超難しいですね。
『一度目、あなたを欺く。二度目、真実が見える』というキャッチコピーの通り、2回観ないと絶対わからない映画です。
ですが、私が1回目観終わった時の感想は「10回観ても何が何だか分からなさそう……」でした笑
そこで、1回目を観終えて、これから2回目を観る方のための、2回目を観やすくするヒントをお伝えしていきたいと思います。
さすがにこれは知ってないと何回観ても分からないよね、って内容になっていますので、ぜひご参考ください。
※あくまで1回は観ている想定で書きますので、ネタバレはご容赦ください
時代背景と全体構造
冷戦中で、アメリカ vs ソ連(今のロシア)が戦っている時代。イギリスはアメリカの味方です。
また、当時はスパイがたくさんいた時代でした。
そんな中で、イギリスのサーカス幹部の中に、ソ連側の味方をしてソ連に情報を流しまくっている「もぐら」がいるのではないか、という疑いが浮上するわけですね。
イギリス側はサーカスですが、ソ連側は「KGB」という組織が主に出てきます。
物語のポイントになる「ウィッチクラフト作戦」というのは、ソ連に情報を渡す代わりにソ連からも情報をもらう、という形のもと、ソ連には実はくだらない情報しか渡さないという作戦です。安全に情報をやりとりできる家を設けて、ポリヤコフを介して情報を受け渡ししていました。パーシーが筆頭となり、トビーもロイもやっていました。
ビルもやっていた、、、と見せかけて、ビルは本当に重要な情報を渡すスパイだったのです。ポリヤコフももちろんそれを知っていて、ビル→ポリヤコフ→カーラ(KGBのトップ)という風に情報を渡していました。
登場人物とポイント
この映画は重要な登場人物がとても多い、、、!と思われるかもしれませんが、整理して要点を掴めば大したことはありません。
サーカス幹部
・コントロール:トップにいたが、ジムが撃たれた事件の責任を取って辞任する(序盤の”C”は辞任サイン)。辞任後すぐ亡くなる。
・スマイリー:コントロールと同じタイミングで辞任した後、もぐらを探す任務に就く。
・パーシー・アレリン:ウィッチクラフト作戦を信じて推し進めていた人。コントロール辞任後、トップになる。
・ビル・ヘイドン:もぐら。頭が良く人望も厚い。詳しくは後述します。
・トビー・エスタヘイス:コロコロと立場を変えてしまうしょぼいキャラ
・ロイ・ブランド:ピーター・ギラムを時々怪しむ人
サーカス実働部隊
・ジム・プリドー:もぐらビルの恋人。ハンガリーで撃たれるも生き延び、教師になる。
・ピーター・ギラム:スマイリーと一緒にもぐら探しをする。
・リッキー・ター:KGB側のイリーナと出会い惚れてしまうが、イリーナを助けようとして「もぐらに関する情報をイリーナが持っている」なんてサーカスに言ってしまった(つまりもぐら本人に伝わってしまった)ばっかりに、イリーナや周辺人物を失ってしまう。
KGB
・カーラ:顔はほとんど出てこないが、KGBのトップ。スマイリーとは因縁の相手。もぐらであったビルから、ポリヤコフを介して情報を得ていた。
・イリーナ:リッキー・ターのせいでKGBにつかまり、ジムの前で殺された女性。
その他
・ポリヤコフ:ロンドンのソ連大使館の人。
もぐらであるビル・ヘイドンについて
ビルについても前提知識が多少必要になると思いますので、書いておきます。
ビルはキャラクターとしては、仕事も恋愛も”デキる”人です。
仕事については、サーカス幹部にいる時点で有能な人だとはわかりますが、ずっとバレずにスパイとして働き続けたこと、ジムがハンガリーで撃たれて真っ先にオフィスに駆けつけた時のてきぱきとした対応、自転車をオフィスに持ち込むなど職場を我が物にしている感じから、「仕事ができて評価もされている人」というのが伝わってきます。
また恋愛面でも、狙った人を仕留める力があります。
スマイリーの弱みであるアンの愛人になったのも、アンを魅了するビルの誘惑が成功しているからこそのことです。
また、ビルは逮捕されたとき、家に男も女もいると言いました。明示されてはいませんが、複数人を同時に引っ掛けられるほどモテる人だったのではないかとわかります。
ちなみに、ビルはゲイです。恋人は、最初にハンガリーで撃たれたジム。
クリスマスパーティーのシーンで2人が交わす視線、何回もリピートしちゃいました、、、!笑
ジムはハンガリーに行く前、恋人であるビルに、「サーカスにもぐらがいるから探したく、情報を得るためにハンガリーに行ってこい」とコントロールに言われたことを、こっそり報告していました。それを聞いたビルはすぐにカーラに報告しました。
だからこそ、ジムがハンガリーに行った時、向こうはあんな万全な状態でジムを囲っていたのです。
ただし、ジムがハンガリーで撃たれたのはソ連側としても誤算で、ただの緊張したウエイター工作員のミスだったので、ビルもまさかジムを撃たせる気はありませんでした。ソ連はジムから、もぐらについてどのくらい情報を知っているのか探りたかっただけなのです。
最後にジムがビルを撃ったこと、ジムのもとに来た生徒の「ビル」の存在の意味も、これでなんとなくわかってきますよね。
ここからは余談ですが、この役をコリン・ファースが演じているのが個人的には最高です。
コリンは2009年に『シングルマン』でゲイ役を演じ、英国アカデミー賞主演男優賞受賞とヴェネツィア国際映画祭男優賞受賞を獲得しています。そして2010年には『英国王のスピーチ』でも主演となり、アカデミー賞主演男優賞など数多くの賞を受賞しました。
日本でもある程度知名度のある、超大御所俳優さんです。
その後2011年に公開されたのが、この『裏切りのサーカス』です。
ゲイ役としても評価を得ている、俳優としても乗りに乗っているコリンだったからこそこの役を務められたんだと思いますし、なんならもう少し出演シーン増やしてほしかったなぁと思ってしまいます。
コリンの他の作品についても記事をいくつか書いていますので、ぜひご覧ください!
シーンの切り替わりについて
この映画の難所の一つでもある、シーンの切り替わりについてです。
何のシーンに切り替わったのかを把握するためのポイントをご紹介します。
セリフが次のシーンへの誘導になる
例えば「コントロールの家の鍵は手に入れたか?」というセリフの次はコントロールの家のシーンになるなど、セリフから次の場面を示すことが多々あります。
次はどんな展開になるだろうとある程度予測しながらセリフを聞いていくと、どんどんわかりやすくなっていきます。
風景で場所がわかる
エッフェル塔が出てきたらパリ、東欧っぽい街並みだったらハンガリーなど、直接じゃないけど場所がどこなのかを視聴者にちゃんと教えてくれています。
現実か回想か
現実シーンから回想シーンへの切り替わりが非常にわかりづらいです。
いくつかのヒントを参考に、回想なのか現実なのかを見極めていきましょう。
・コントロールがいるかいないか
コントロールは序盤で亡くなりますので(病院のベッドで亡くなる人の描写)、その後にコントロールが出てきているシーンは全て回想です。
・スマイリーのメガネの色
序盤にスマイリーはメガネを買い替えに行きます。買い替え前はべっ甲色で、買い替え後は黒っぽいのです。よって、買い替え後にべっ甲メガネをかけていたら、回想シーンだとわかります。
・クリスマスパーティーのシーン
クリスマスパーティーのシーンが何回かありますが、あれは全て回想です。
他にも回想シーンが出てきますが、回想だと気付けるようなヒントがない場合もありますので、「回想かもしれない」と思いながら見ることが大事かもしれません。
なぜこんなにわかりづらいのか
なぜこの映画がこんなにわかりづらく作られているのかがわかると、もう少し楽しんで見られるようになる気がします。
ストーリーは既に有名だから
TINKER TAILOR SOLDIER SPYは既に有名なストーリーだから、あえてわかりやすくする必要がなかったという説があります。
1974年にジョン・ル・カレが書いた小説で、ドラマやラジオドラマにもなっていたので、ストーリーを知ったうえで映画を見る人も多かったのだと思います。
俳優やセットによる画面の美しさの追求
スマイリー役のゲイリー・オールドマン、ビル役のコリン・ファース、ピーター役のベネディクト・カンバーバッチなど、豪華俳優陣のゴージャスすぎる画面が見どころだと思います。
彼らが素晴らしい演技を見せるための映画といっても過言ではないくらいです。
特に、コリン・ファースが自転車をオフィスに持ち込んでベネディクト・カンバーバッチと話しながら歩くシーンなんて、ストーリーにとってすごく重要というわけではないのにバッチリ使われているのは、そのお二人が歩いている画がとんでもなく贅沢だからですよね(笑)
また、ビルがアンに渡した絵とか、エンディングで流れる”La Mer”とか、視覚的・聴覚的に謎解きに参加できるようなものが散らばっているのも、映画化した意味だと思います。
そういう映画の美しさの追求を存分に楽しめると、この映画は最高に面白くなります。
以上、『裏切りのサーカス』(TINKER TAILOR SOLDIER SPY)の2回目を観る方のための解説でした!
ぜひ諦めず観てみてください(^^)
最後の最後におまけですが、スマイリーが電車の往復チケットを買うときに”return ticket”と言っていたのが、イギリスだなぁと感じました。
アメリカ英語では”round trip ticket”で、「往復」って感じがしますよね。でもイギリス英語では、「戻る」ほうを指すだけで「往復チケット」の意味になるんです~!
コメント
[…] 描写やシーンの切り替えなどは『裏切りのサーカス』と同じような不親切さもありましたよね。まぁそれはそれで、映画の味として楽しめるものだと思います。 […]
[…] 2011年『裏切りのサーカス』(Tinker Tailor Soldier Spy)では、コリンのボーイフレンドとして共演!熱い視線を送り合うシーン、マークが撃たれた時のコリンの動揺、2人のエンディング、、、コリンとマークなしには成り立たない映画でしたね。 […]
[…] そういえばコリンの出ていた別の映画『裏切りのサーカス』でも、飛行機が降りてくるシーンがあって、タイミングを合わせて撮影するのにすごく苦労して何度も撮ったとインタビューで語られていたのを思い出しました。 […]