田口塾の西口です。
千葉大学園芸学部(緑地環境学科)の後期の二次試験は小論文ですが、対策のための材料が少ないので、似せた問題と模範解答を作成してみました。
受験する方にはご参考いただけると嬉しいです。
問題
ニッポン放送「ザ・フォーカス」(2020年3月11日放送)に作家・ジャーナリストの河合雅司が出演した。以下の文章は、その際に河合氏が行った、東日本大震災からの復興の課題についての解説(一部改変あり)である。この文章を読み、以下の問いに答えなさい。
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東日本大震災の発生から、今日で9年を迎えました。
被災者向けの災害公営住宅3万戸は、9割以上が整備された状態になっています。一方で、被災した自治体は人口がどんどん減少している状態にあります。もともと、日本全体でも人口が減る局面に入って来ているところに、拍車をかけた形になってしまっていますね。一方で、仙台市やその近郊はむしろ人口が集中していて、同じ被災地でも9年間でずいぶん変化がありました。9年前の状況とはまた違った、それぞれの被災地のあり方を考えて行く段階に入っているのだと思います。
この9年間を振り返ってみると、戦後復興と同じようなこと①をしてしまったイメージがあります。つまり、人口が増えて行く時代の復興のやり方だったのです。いろいろな意見があるので、取りまとめは難しかったのだろうと思いますが、元の生活や街並みをそのまま再建するのだという計画を立てました。しかし、日本全体で人口が減って行く局面だったことを考えると、被災地では震災がなくてもある程度人口が減っていたはずだと思います。本当はこれを機に先例的な、人口減少社会にあったまちづくりを考えた方が、結果として持続可能性が高まって行ったのではないかと思うのです。元々あったものをそのまま復興というよりも、人口が減って高齢化して行くという日本全体の問題を睨んで、小さくてもきちんと機能するようなまちづくりをしたら、日本全体のモデルケースが東北地区にいくつもできたと思うのです。残念ながら、この9年間を見ていると、そういったまちづくりに取り組んだところは見えて来ませんでした。やっているところはあるのかもしれませんが、人口が増えていたときの発想で復興に取り組んで来たのは残念だったと思います。
いまからでも遅くないので、ある程度の拠点のようなものをつくって行く。高齢者同士が助け合って暮らせるような、コンパクトなまちづくり②に取り組んだ方がいいと思うのですよね。地元の企業が頑張っているところもありますので、そういう企業を中心として雇用も考えながら、500人~1000人規模の拠点をいっぱいつくって行くことだと思うのです。高台や沿岸地であっても場所は選ばないわけですが、これまでのような拡大発展型の開発は、被災地だけでなく日本中でできなくなって来ます。1000人なら1000人がきちんと暮らせるコミュニティを考えて、施設をつくって行くやり方の方がいいと思うのです。
東北地方の自治体の首長さんに提言したことがあるのですが、震災のときに電気などのエネルギーが途絶えたではないですか。一方で、北欧などには高気密住宅のような、1回室内を温めたらずっと暖かさが続く住宅をつくっている企業があるのですよ。東北地方には林業③が盛んな場所も多いので、電気を多く使わなくても暖かくいられるような、林業と合わせた家づくりをしたらどうかと。そんな住宅を世界に売って、その地区を維持して行く。そうすると1000人くらいの規模でも、十分に経済的にも潤う場所ができるのです。仮設住宅もプレハブだと寒くて仕方ないのですが、北海道の企業が木材でつくった、トレーラーで運べるようなプレハブではない仮設住宅があるのですよ。あれは気密性がよくて、海外に売り出そうという企業もあるようです。日本の林業が復活しますね。いい木材を使ってコンパクトな家をつくり、小さな町をつくって行くというのはあるかもしれませんね。
出典:ニッポン放送NEWS ONLINE『東日本大震災から9年〜今後の復興で目指すべきは”小さな町づくり”』2020年3月12日
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問1
下線部①「戦後復興と同じようなこと」とはどのようなことだと述べられているか、また、それにはどのようなデメリットがあると考えられるか、200字以内で記述しなさい。
問2
下線部②「コンパクトなまちづくり」を行うために必要なことは何か。あなたの考えを300字以内で説明しなさい。
問3
下線部③「林業」とあるが、文章中では山林が減災に活用される事例として、林業と合わせた家づくりが紹介されている。これ以外で、自然や生態系が災害対策に役立つ事例を1つ挙げ、300字以内で説明しなさい。
解答例
問1
「戦後復興と同じようなこと」とは、人口が増えていた時代の復興である。本来は人口減少を見据えたまちづくりを行うべきであったが、戦後の人口が増加していた時期と同じ発想で、あったものをそのまま元に戻すような再建を進めてしまった。こうした復興のデメリットは、まちの構造、施設、機能などが高齢化・過疎化した社会に適応していないために、住民にとってより住みやすいまちづくりの形成を行う機会を損失することである。
(199字)
問2
コンパクトなまちづくりに必要なことは2つあると私は考える。第一に、その街の中である程度の自給自足が可能になるよう、農地・山林などの緑地を確保することである。とりわけ、各地域が気候や地形を活かした固有の食糧生産を実現できれば、特産品としての経済効果や住民の文化的アイデンティティの強化が見込める。第二に、それぞれのまちを繋ぐネットワークが必要である。これは、災害などの緊急時に協力関係を築けるほか、交流があることでイノベーションも生まれやすくなる。このように、1つのコミュニティ内の充実および各コミュニティ同士の連携の両側面から考えることで、コンパクトなまちづくりは可能になると私は考える。
(294字)
参考:https://www.mlit.go.jp/common/001109414.pdf
問3
農地は、地震発生時の減災に活用できるのみならず、発生後や復興時にも効果を発揮する。減災の効果としては、地震によって崩壊するような高い建造物がないため、身の安全を確保できる場所として機能する。加えて、脆弱な土地は農地として使用し続けることで、建築のために開発されるのを防ぎ、震災時の被害を抑えられる。地震発生後には、食料や水を確保できる場所となる。さらに、地震発生後から復興段階にかけては、農業従事者の需要が無くなる可能性は低いため、農地にて雇用の確保も可能になる。以上のように農地は、地震発生前の対策時、発生時、発生後、復興時の各段階において、人々を守る役割を果たすことができる。
(290字)
参考:https://www.env.go.jp/nature/biodic/eco-drr/pamph02.pdf
補足
より詳細な解説や、ご自身の書いた小論文の添削をご要望の方は、ぜひお気軽に田口塾へお問い合わせください。オンライン指導も可能です。
以上、田口塾の西口でした!
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