コリン・ファース主演の映画『シングルマン』(”A Single Man” in English)を観ました。
感想を書こうと考えていたのですが、私はすごく久しぶりに「これは言葉に表してしまってはいけない」と思ったのです。
なので、感動したことや共感したことを書くかわりに、なぜ「言葉に表さないままにしておきたい」と思ってしまったかを書き残しておきたいと思います。
※ネタバレ含みます
「感覚」で受け取る美しさ
この映画では、主人公がどう世界を感じているかをできるだけそのまま切り取って、映像と音声で表現されています。
人生最後の日に見えてきた、「今この瞬間」に生きたからこそ見えた世界の美。
主人公にとって美しいものが映る時の彩度の高さ。
小さく抑えられた周囲のノイズと、それを半分覆い隠すように流れるBGMを聞くと、主人公が周りの景色をどんな感情で染めながら見ているのかわかってくる。
雨で濡れた身体で冷たさが伝わってくるのに対して、ジムとの読書の時は密着していたり、ポッターを夜に迎え入れた時には暖炉を付けていたり。
いろんな人がいろんな場面で漂わせる、いろんな煙草の香り。
それから、人との繋がりを介してくれる酒。
これら五感の情報全てが自分の中に流れ込んできて、主人公の主観的な世界を体感していくことで、この映画の美しさは受け取れると思いました。
だから、それを全て言葉にしてしまうのは違うと思いました。
喜びと悲しみの共存
ネガティブな感情に支配されるシーンはもちろんありますが、ポジティブな感情が湧いてくるシーンもあります。
でもそんなシーンでもほとんどは、ネガティブな感情も共存していたように思いました(ポジティブな感情に満ちあふれていたのは、ジムとの時間のシーンだけな気がしました)。
特に、チャーリーや美男子との関わりで喜び・安心を得る時です。
一緒にいればいるほど、短期的に傷は癒えるけど、自分への情けなさや相手の想いに応えられない辛さは大きくなります。
死という悲しい事実の中に救いを残すようなエンディングもまた、ポジティブとネガティブが共存していると思います。
自殺を選んで死んだんじゃなかった、少なくとも生きることを選んでから死に至ったという部分では、遺されたケニー・ポッターにとっても視聴者にとっても少しは救いがあるし、何よりジョージ本人にとっては前向きな最期だったと思います。
純粋なハッピーを得ること、享受することの難しさってありますよね。
その感情の複雑さや微妙さは、「この人はこう思った」と安易に言葉にできるものではないのです。
最後に
以上の2つが、私がこの映画の感想を言葉にしたくないと思った理由でした。
これ自体も感想だと言われればそれはそうなんですが、「多様な感覚や複雑な感情の混ざり合いを、言語化できないレベルで受け取りたい」という気持ちを込めて、このように書いておきます。
おまけ
個人的には、チャーリーと晩餐で冗談を言いながら笑うシーンで、ジョージの笑う顔がほとんど映っていなかったところが良かったなと思ってしまいました。
ジュリアン・ムーア(チャーリー役の女優さん)があの笑い方で場を支配できるというのはそうなんですが、コリンが声を出して笑っているところを見ると、ただの優しい現実のコリン・ファースに戻り過ぎてしまい、移入した感情が冷めてしまう気がします。
ジョージを演じるコリンが、苦しみを抱え込みながら全ての瞬間を生きていることが表情とオーラのニュアンスで伝わってくる、あのコリンの演技を貫いてくれて良かったです。
コメント
[…] コリンは2010年『英国王のスピーチ』で国王役、2009年『シングルマン』で恋人を亡くしたゲイ役を務めていて、世間的には”重荷を背負いながら懸命に生きる人”みたいなイメージもあったんじゃないかと思います。 […]
[…] これは『シングルマン』と並ぶくらい、人におすすめしたい映画でした! […]
[…] コリンは2009年に『シングルマン』でゲイ役を演じ、英国アカデミー賞主演男優賞受賞とヴェネツィア国際映画祭男優賞受賞を獲得しています。そして2010年には『英国王のスピーチ』でも主演となり、アカデミー賞主演男優賞など数多くの賞を受賞しました。 […]
[…] コリンをスターたらしめた『高慢と偏見』、それに続く大人気作品『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズ、受賞作品である『シングルマン』や『英国王のスピーチ』などなど、コリンは代表作ではたいてい”お堅い”役を演じているんですよね。序盤から鮮やかな笑顔を連発するような役はあまりなくて、後半から徐々に素敵な笑顔が垣間見えてそれが魅力的っていうキャラが多いと思います。 […]
[…] ゴールデンサークルに登場するポピー役のジュリアン・ムーアは、2009年『シングルマン』でコリンと密接な関係を持つ役として共演しています。 […]